全身的因子と歯周病について
全身性疾患がある。あるいは全身性疾患が疑われる歯周病患者には、歯周治療開始前に十分に医療面接を行うとともに、症状に応じたすみやかな医師への問い合わせが必要となります。全身性疾患を十分管理することで歯周治療が可能となる場合があります。しかし、全身性疾患の種類や症状によっては、歯周治療のみならず歯科治療が困難となる症例もあるので、そのような場合は早期にその全身性疾患を専門とする高次医療機関と連携をとり、病状や治療上必要な情報提供や全身性疾患に対する管理を依頼すべきです。また。全身状態が十分管理された状態でも細心の注意をはらう必要があります。
1.歯周病に影響を与える因子
①先天的因子
1.遺伝的リスクファクター
代謝遺伝子異常や炎症免疫関連遺伝子の多型性、遺伝子発現レベルなどの異常が関連すると考えられます。Down症候群、Papillon-Lefevre 症候群、Chediak-Higashi 症候群などは、歯周病の重篤度が高いことで知られています。
2.年齢・性別
歯周組織の破壊が低年齢層から始まるものや、進行の速いものは予後が不良になる(侵襲性歯周炎など)、また、性ホルモンの増加ではPrevotella intemedia の増加により妊娠、思春期性歯肉炎が生じ、閉経後の女性ではエストロゲンの分泌低下により炎症性サイトカインが増加し、歯槽骨吸収や歯周ポケットの深化に関連する可能性があります。
3.人種民族差
人種民族差の因子は日本ではさほど重要ではないが、米国の白人、メキシコ系米国人、アフリカ系米国人ではアタッチメントロス量、プロービング値、歯周炎罹患率を比べると、いずれも白人が最も低いことが示されています。人種民族差は口腔細菌叢、宿主応答の差違、食習慣、社会経済的要肉や歯科治療への理解などが影響していると考えられます。
②環境および後天的因子
1. 喫煙
喫煙は、歯周病の環境因子からみた最大のリスクファクターです。喫煙者は非喫煙者に比べて2~8倍、歯周病に罹患しやすいことが報告されています。また、喫煙は歯周病の治癒の反応を低下させます。
2.ストレス刺激
ストレス刺激は、歯周病の重症化に関連し、ストレス刺激が誘導する精神の緊張状態(ストレス反応)が免疫応答に影響を及ぼします。
3.糖尿病
糖尿病に併発する歯周炎は、糖尿病が原因で惹起されるのではなく、糖尿病による免疫系機能障害、末梢血管循環障害、創傷治癒遅延などが歯周炎の病態を修飾するものです。
4.肥満
肥満の人は歯周病に罹患しやすく、内臓脂肪から産生されるTNF-α(腫瘍壊死因子:tumor necrosis factor α)が関連していると考えられています。
5.常用薬
歯周病は細菌感染によって惹起される炎症性疾患であり、結果として歯槽骨の破壊などの骨代謝に関連します。したがって、免疫抑制薬、炎症性サイトカイン標的治療薬、骨代謝関連薬、副腎皮質ステロイドなどは、歯周病の病態に影響を与えます。例えばフェニトイン(抗てんかん薬・ヒダントイン系薬)、ニフェジピン(降圧薬・Ca拮抗薬)、シクロスポリン(免疫抑制薬・カルシニューリン阻害薬)などの薬剤の常用により薬物性歯肉増殖症を誘発することがあります。
6.HIV感染
HIV感染によって、壊死性瘍性歯肉炎(歯周炎)様の症状を呈することがあることから注意が必要です。
2.歯周病が影響を与える疾患
①血管障害性疾患
動脈硬化症や虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)ではサイトカインが血栓の形成に関与する可能性が考えられています。
②誤嚥性肺炎
歯周病原細菌をはじめとする口腔細菌が唾液などを介して気管を通過し、肺に入ると誤無性肺炎を発症する場合があります。
③早産・低体重児出産
中等度以上に進行した歯周炎をもつ母親は、そうでない母親より早産・低体重児出産のリスクが高いことが報告されています。
④糖尿病
歯周炎により生じる炎症のケミカルメディエーターであるTNE-αはインスリンの抵抗性を増大させ、糖尿病を悪化させる可能性が報告されています。
⑤関節リウマチ
関節リウマチを有する患者ではアタッチメントロスおよび歯の喪失が大きいことが知られています。歯周病と関節リウマチの病因・病態には共通点が多く、炎症性サイトカインやPGE2(プロスタグランジン E2:prostaglandin E2)などの産生亢進が組織破壊に関与していると考えられています。
⑥その他の疾患
その他にも、日常的な菌血症、慢性腎臓病、非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepa-titis:NASH)などの発症、進行に影響を与えるという報告があります。